美少女の憂鬱

作・よしおか

ある晴れた休日の昼下がり。日本でも有数の巨大遊園地の徳島園の野外フードエリアにあるテラスのひとつに、美少女が座っていた。髪を後ろで束ね、前髪を切りそろえたその美少女は、脇に巨大なブーメランを立てかけていた。その憂いを秘めた大きな瞳は、世のオトコと名の付く者は、坊主さえも引き付けてしまうほどの美しさなのだが、彼女の周りには、モーションをかけようとする男の姿はなかった。だがその代わりに、彼女の周りには、子供達が集まってきていた。少しだるそうなのだが、彼女は、表情ひとつ変えずに、子供達の相手をしていた。やはり疲れているのか、子供達が彼女の持ち物の巨大なブーメランを傷つけても、大声で怒鳴ることもなく。静かに仕草で諭すだけだった。

やんちゃな子供達が去り、彼女にひとときの安らぎが訪れたように思えたが、すぐさまその安らぎは、壊されてしまった。

「あの〜写真。いっしょに撮ってもらえませんか?」

あの傍若無人のオバタリアン予備軍とも言うべき「女の子グループ」が、子供の相手に疲れきっていた彼女に、写真を求めてきた。

疲れきっていたはずなのだが、彼女は、いやな表情もせずに彼女達のそばに行き、一緒に写真に写った。彼女達のリクエストに答えていろんなポーズをとったりした。そして、何枚か写真を一緒に撮ると、礼を言って「女の子グループ」は去って行った。

「男の人かしら?」

「なに言っているのよ。あれだけスリムなのだから絶対女性よ」

「意外とオカマだったりして・・・」

むちゃくちゃなことを言いながら、彼女達は去っていった。これだけの美少女をオカマだなんて。

また、一人になった彼女は、腰に巻いた赤いスカーフバンドの絞りの横につけていた黒いポシェットから硬貨を取り出すと、野外フードショップで、オレンジジュースを買った。そして、ストローを二本もらうと、さっき座っていた席に戻ると、もらって来たストローを繋ぐとわずかに開いた可愛い唇の間に咥えた。やがて長く繋がったストローは、スルスルと彼女の唇の間に入って行って、ストロ−のつなぎ目が彼女の唇につかえた。その姿は、普通に彼女がジュースを飲んでいるようにしか見えなかった。

「なに気持ち悪い飲み方しているのだよ」

長髪の修行僧の格好をした若い男が、彼女の前に座った。

「脱ぎゃ良いじゃねえかよ。飲みにくいだろが!」

若い男は、彼女を小バカにしたように言った。だが、彼女は、そんな男を無視してジュースを飲み続けた。

「おめえも、そんな暑苦しい格好をやめて、コスプレすればいいのだよ。楽しいぞ、コスプレ」

そんな彼の言葉にも動ずる様子もなくジュースを飲み続けた。

「さっきも女の子といっしょに写真を写っていてよ。チャンスなのに、声もかけられないだろうが、結構可愛かったのにもったいねえなぁ」

一瞬、ジュースを飲む音が止まったが、また吸い出した。

「ギヒヒヒヒ・・・一瞬惜しいことしたと思っただろうが。ガキに蹴られても声を出されないしなぁ。つらいだろうなぁ。さて、腹減ったし・・・焼きそばでも食うか」

そういうと、男は立ち上がり、フードショップに行くとそこのバイトの女の子に声をかけた。

「君かわいいねぇ。ボクといっしょにコスプレしない?」

「え〜、わたしですか。あなたがパートナーだとすると、わたしはやはり・・・・」

「そう、優しくサポートしてあげるよ。君が・・・・なら、命を賭けて守るよ」

「もう、やだ〜〜、本物と同じにプレイボーイね」

「なんの、なんの。ほんきだよ」

そんな彼を見て、彼女は、手を振った。それは、『あほ』といったように思えたが、彼女の声はしなかった。

フードショップの女の子に相手にされなくなると、彼は、通りすがりの他の女の子のほうへと駆け出して行った。

「おじょうさ〜〜〜ん」

そんな彼を見ながら、彼女は、あきれたような素振りをした。着ぐるみのマスクで表情はわからなかったが、その動作には、しっかりと現れていた。

ジュースを飲み終え、彼女は立ち上がると、空いた紙コップをゴミ箱に放り込んで、すたすたと歩き出した。そんな彼女の周りに、また子供達が集まってきた。彼女は、立ち止まって子供達の相手をし始めた。どんな小さな子供にも、ちゃんとお相手をしてあげた。子供達もそうだが、彼女も楽しそうだった。やがて親に引かれてその場を去りながら、手を振る子供達に、彼女はいつまでも手をふっていた。

やがて、日も傾いてくると、彼女は、更衣室へと入って行った。そして、辺りの人の気配に気を配りながらロッカーの前に立ち、ロッカーをあけて袋を取り出すと、着ぐるみのマスクをとった。

「ふぅ〜」

そのマスクの下から現れた顔は、そのマスクにも劣らない。いや、マスク以上にかわいい美少女だった。

「ひえ〜〜、野郎かと思ったら、こんな美少女だったのか。俺も焼きが回ったよ」

さっきの修行僧のコスプレ男が、いつの間にか後ろに立っていた。

「どうだいお嬢さん。俺とお茶でも?」

その男の誘いを無視して、彼女はマスクを取り出していた袋に詰め込むと、黙ったままでコスチュームはそのままに、更衣室を出て行った。後ろから何か叫んでいる男を完全無視して、少女は、その場を去って行った。

美少女が、ボディラインがあらわなコスチュームで歩いているので、男たちは、彼女に視線を奪われてしまった。男たちの視線を感じながら、少女は、遊園地のゲートをくぐって、外に出た。だが、帰りの電車の中でも彼女は注目の的だった。視線を気にしてか。彼女はドアのそばに立ち、ずっと外を眺めていた。目的の駅につくと、少女は、電車を降り、改札を出ると、家路を急いだ。そして、あるアパートの二階に上がると、その中の一室に入った。そして、ドアに鍵をかけ、窓にカーテンをかけると、今まで着こんでいて、汗だくになっていたコスチュームを脱いだ。その下は、裸だった。

少女は、後ろ髪を両手で掻き揚げると、つまみを、摘んで、ジッパーを下ろした。 ・・・・ん? じっぱぁ?

少女は、背中のジッパーを下ろすと、両手で淵を掴み、両側に引いた。その裂け目から、細身の男が現れた。

「かわいい女の子の着ぐるみの中身がおっさんじゃあ、子供達の夢を壊すからなぁ。でも、二重はさすがに堪えるわ。わはは・・・・」

部屋の中に、男の高笑いが響いた。

あとがき

決してモデルは、まりさんと千枝さんではありませんから・・・・信じてぇ〜〜 ^^;)

着ぐるみの中身は・・・・謎のままがいいかもね。